1996-12-04 [J] [長年日記]
No.31 押したものが出てこない自動販売機
うちの会社にある自動販売機は、「くじ引き機」である。表題にあるとおり、押したもの、すなわち所望のものが出てこないのである。「超微糖JIVEコーヒー」を押したら、甘ったるい「ポッカコーヒー」が出てきたり、HOTと書いてあるので押したら、冷たいのが出てきたり、なんでもアリである。
ある日、文句を言った人が、「出てくるだけありがたいと思わなきゃ」と、食堂にいる自販機担当のおじさんから、ずいぶん横暴な事をいわれたそうだが、なるほど、出てくるだけありがたいのだろうか。
この件は、世間一般で当たり前だと思われている事が、如何に大変な事かということを気づかせてくれる。べつに気づきたくない気もするが、押したものが出てくる自販機というのは、実はとても偉大なのでなかろうか?確かに、あの自販機を知ってしまうと、他の自販機が偉大に見えてくる。
押したものが出てくるという事は、缶を補充する人が、きちんと仕事をしてくれるからこそ成せる業であるという事である。そういわれてみれば、電車だって何だって、正確に動いているのは、動かしている人間がいるからだという事を忘れてはならないのかもしれない。
ただ、日常でそれを感じないのは、けしておかしなことではない。意識はしていないけれども、かたい信頼関係がそこには存在するからである。押したものが出てくるのが当たり前、というのは、要するに自動販売機、すなわち缶を補充している人を信頼しているからである。いちいち疑ってかかる方が異常であろう。
なるほど、最初からまともに出ないとわかっている自販機なら、信頼もクソもないので、けっこう平気で買ってしまう。最初から信頼していないのなら、裏切られても、そんなに不愉快ではない。ここまで計算しているとすれば、食堂のおじさんは、けっこう侮れないのかもしれない。