1996-11-04 [J] [長年日記]
No.10 機械の中身
電子レンジの原理を知っている人は結構少ないだろう。ビデオカメラがどのようにして画像を記録しているか知っている人もあまりいないだろうし、MDの音声記録方式を説明できる人も少ないと思う。要するに、最近の電化製品というのは非常にブラックボックス化してきているということである。中でなにが行われているかわからない製品を使っていて、危険性を感じる人は少ないだろうけれども、何かおきたときに自分の直感で対処できないというのは非常に恐い気がしてならない。
自転車が壊れたら、たとえばパンクしたら、それを誰が直すかはともかく、直らないと満足に走れないということが、誰にでもわかる。でも、携帯電話が最近調子悪いけど、たとえば電池があまり持たないけど、話せるからいいやなんて言っていたら、とんでもない出力の電波が出るようになっていて、健康を害すなんてことがあるかもしれない(まだ、健康と携帯の電波の相関関係は明らかにされていないけど)。
要するに最近の「ハイテク」というやつは、素人には到底想像もつかないくらい複雑なんである。いつも見ているテレビが、いつのまにかおかしくなっていて、目によくない怪電波を出し続けるとか、そんなことがおきても、目が悪くなるまで気がつかない。自転車だったら、「もう乗れない」というのがすぐわかるわけで、怪我をするまで乗り続けないとわからないなんてことはまずない。直感で不具合が見ぬけない機械というのは恐いものなのである。
メーカーはそこらへんをよく考えるべきだろう。なかなか壊れませんなんていう、不具合が起きてもしぶとく使えるものより、ちょっとおかしくなったらとっととぶっ壊れちゃうように仕向けられた機械の方がもしかしたら安心できるかもしれない。極論を言ってしまえば、そんなわけのわからない機械なんてなくなっちゃえばいいのに、なんてことになるんだけれども、そんなわけにもいかない。
いずれにせよ、一般人の常識と、ハイテク装置の中身の複雑さのギャップは、加速度的に離れていっている。それは、人間の生活に数多くのブラックボックスを生み出すわけで、それが結果的にどのような影響を及ぼすか、考えてみるのもいいと思う。